デジタルツールによる業務の大幅な変革(DX=デジタル・トランスフォーメーション)の必要性が、日本のビジネスシーンを支えてきた卸売業の現場でも顕著化しています。
今や事業規模の大小を問わず、ITツールによる卸売業務のシステム化は今後の業界を生き残るカギとして認知されています。
とはいうものの、
「いったい何から始めれば良いのか?」
「ITツールでどんな作業が効率化できるのか?」
「そもそも本当に自社に必要な施策なのか?」
といった疑問から、なかなか行動に踏み切れず、システム化が進んでいない企業も多いのも実情です。
この記事では、「ITツールによる卸売業のシステム化」にスポットをあて、「どのような業務が改善されるのか」「どのようなツールを導入すればいいのか」といった点を詳しく解説します。
卸売業のIT化・システム化を通した売上アップやリスク軽減に興味のある担当者様や、実際にツールの導入を検討されている担当者様はぜひ最後までご覧ください。
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INDEX
卸売業の役割
卸売業は、メーカー・生産者から仕入れた商品を小売業者に向けて販売します。
「日本独自のビジネスモデル」と評されることも多い卸売業は、商品に関する深い知識や、築き上げてきた流通網を活用することで、円滑で効率的な商品や情報の取引を支えています。
卸売業者が存在することで、小売業者は複数のメーカー・生産者と直接取引をする必要がなくなり、仕入れ業務を大きく効率化させることができます。
小規模な店舗でも、大量発注を前提とした商品(例:製造ロット単位での販売など)も、卸売業者が間に入ることによって小分けに仕入れることができ、商品展開に柔軟性が生まれます。
メーカー・生産者にとっても、卸売業者が存在することで「効率的に大量の在庫をさばくことができ、在庫リスクが軽減される」「販売活動を自社で行う必要がなく、生産にリソースを集中できる」など、さまざまなメリットを享受できます。
卸売業の今後の課題
このように、卸売業者は商品のスムーズな流通になくてはならない役割を担ってきました。
一方で「多くの取引先と関わる」という業態は、業務が複雑化しやすく、受発注や在庫管理などでミスやトラブルが課題となっています。
歴史ある卸売業者ほど、長年築き上げてきたワークフローの刷新が難しく、非効率的なアナログ作業から抜け出せないままになりがちです。
また、ECサイトを通して消費者へ直接販売を行うメーカーが増えてきたことで、卸売業の存在意義が問われるようになってきました。
卸売のビジネスモデルが完全に消滅することは考えづらいですが、これからの時代を卸売業が生き残っていくためには、市場の変化に合わせた業務変革は避けて通れません。
「ITツールによる業務改革」はその中でも代表的な取り組みの1つです。
卸売業務のシステム化に効果はある?
優位性を確保し、市場シェア拡大につなげることが卸売業のシステム化、業務改革(DX)の目標となります。
システム化された環境を整えることで実現されるコスト削減とサービス向上が、売上アップに貢献します。
業務が効率化・最適化され、価格競争力の強化や顧客への細やかな対応など、成長を促す付加価値を高める選択肢が生まれます。
そして、卸売業務のシステム化が現場にあたえる効果は大きく2つに分けられます。
「業務の省力化」と、「社内外コミュニケーションの最適化」です。
業務の省力化
「業務の省力化」は、卸売の各業務に向けたツールやシステムを導入して実現します。
例えば、バーコードスキャナやRFIDは、倉庫内在庫の自動カウント・自動記録が可能になります。
膨大な数の商品を扱う卸売業は、在庫管理の業務(入出庫や棚卸など)は時間がかかる上、ミスも発生しやすいですが、こういったITツールを活用することで、多くの卸売企業は煩雑な作業負担から解放されつつあります。
社内外コミュニケーションの最適化
オンラインで24時間利用可能なクラウドシステムは、顧客対応や情報共有を多様化、高速化できます。
例えば、クラウド在庫管理システムは、アカウントを持つすべての担当者がいつでも、どこからでもリアルタイムに最新の在庫状況を把握できます。
営業担当者は在庫管理部門と電話やメールでやり取りすることなく、顧客からの問い合わせや商談に対応できるようになる上、在庫データがシステム上で統一され、業務の属人化防止にも効果があります。
システム化すべきワークフローは?
何でもシステム化すれば良いのかというと、そういうわけでもありません。
システム化には業務内容によって向き不向きがあり、業務のプロセスや商習慣によっては、あえてシステム化すべきでないケースも考えられます。また、導入すべきツールも企業によって異なってくるでしょう。
そんな中でも、卸売業全般にとって有用とされるITツールや、業界問わずシステム化の効果を得やすいワークフローがあります。
卸売業にとって改善効果が高いワークフローと、導入すべきITツールの例をご紹介します。
次にあげるような在庫管理や受発注管理、EC運用の業務改善やツールの導入を検討することで、システム化への第一歩としてみてはいかがでしょうか。
在庫管理
在庫管理は卸売業の利益を左右する重要なワークフローです。
適切な在庫管理によって、欠品や過剰在庫を防止し、トラブルや無駄なコストの発生リスクが減少します。
また、多種多様な商品を扱い、顧客ごとに異なる商品を販売する卸売の事業戦略に必要となる精度の高い需要予測は、入出庫の正確なデータの蓄積によって構築されます。
一方で、卸売業の在庫管理は入力ミスや数え間違い、担当者間や拠点間の情報共有の遅れや漏れなどヒューマンエラーが発生しやすい業務ですが、Excelの在庫管理がこれらの問題が生じる原因ともなっています。
在庫管理システム
上記の課題の改善への対策には、在庫管理システムの導入が第一の選択となります。
在庫管理システムとは、在庫管理を最適化するさまざまな機能が搭載されたシステムやソフトウェアです。
部署や拠点を横断したリアルタイムでの在庫データの共有、入出庫に伴うデータ更新の自動化など、業務効率化に役立つ機能で在庫データの一元管理ができます。
他にも、在庫の入出庫や引き当て、発注履歴を分析した需要予測は、販売戦略の立案の効率化と高精度化が期待できます。バーコードスキャナと連携させると、商品データの自動登録が可能になるなど、機能拡張も可能です。
在庫管理システムは、在庫管理そのものの土台を構築するITツールといえるでしょう。
バーコードスキャナ
バーコードスキャナと在庫管理システムとの連携は、荷物に貼りつけてるラベルのコードを読み取るだけでシステムへの商品登録を瞬時に行えるようになります。
入出庫や棚卸の作業時間が大幅に短縮できるだけでなく、数え間違いが削減できるメリットもあります。
従来はハンディターミナルの導入が一般的でしたが、最近ではスマートフォンアプリとして提供されることも増えており、より柔軟性の高い運用が可能となっています。
棚卸などの倉庫内業務を改善するなら、バーコードスキャナと在庫管理システムの連携が有効な施策となるでしょう。
倉庫管理システム
倉庫内作業全般の効率化を目的としたシステムです。
商品の在庫管理だけでなく、人員配置やスタッフのスケジュール管理、設備管理、業務進捗の管理など、倉庫内作業に関わるデータをつなげて一元管理できる点が特徴です。
複数の倉庫を保有していたり、倉庫内作業が担当者の負担となっている、アナログな管理が非効率になってきた場合には、倉庫管理システムによる業務効率化を進めるタイミングとなるでしょう。
受発注管理
卸売業の受発注に関する社内外のやりとりは、ワークフローが煩雑化しやすく、多くの企業で課題となっています。
- 同一商品でも、顧客ごとに異なる掛け率や取引条件を管理する必要がある
- 異なるフォーマット(メール、Excel、独自フォーマットなど)で送られてくる発注書の管理や転記作業
- 口頭連絡の伝え間違い、聞き取り間違い、「言った・言わない」のトラブル
- 営業担当者不在時の機会損失、時間外対応
ビジネスモデルの異なる企業と大量の取引を行う以上、アナログな方法でこのような課題をすべて解決するのは不可能に近く、人的リソースの過剰な圧迫と、ミスやトラブルの温床となってしまっているのが現状です。
受発注管理システム
受発注管理システムは、取引先との受発注に伴う業務を効率化、自動化する機能が搭載されているシステムです。
顧客ごとに異なる価格や取引条件でWEB受注できるクローズドBtoB ECや、見積書や請求書など伝票作成、連携システムへの情報共有、納期などスケジュールの一元管理など、受発注管理業務の生産性を上げる機能があります。
また、顧客にはシステムを通した発注に切り替えてもらうことで、異なるフォーマットの発注書を管理する必要もなくなります。
発注スタイルの変更に難色を示される可能性もありますが、オンラインで24時間いつでも発注できる利便性と、従来の発注方法と比べてヒューマンエラーのリスクも格段に低く、ECサイトのように商品情報をしっかりと吟味した上での発注などは、顧客の導入ハードルを下げるメリットとなります。
受発注管理システムは業種に特化したものがリリースされており、例えば、アパレル向けならサイズや色のバリエーションなどの条件での商品管理や、オンライン展示会やWEBカタログのビジュアル表現や委託販売や予約販売、受注生産などの機能が充実しています。
食品業界向けでは、消費期限に基づいた商品管理やトレーサビリティ、医薬品業界向けならGMPなど規制を反映した記録管理といったように、ニーズや商習慣に対応した機能やサービスがあります。
どの受発注管理システムを選べばいいのか迷ったら、業種と自社の業務内容に合ったシステムかをじゅうぶんに比較検討するよう心がけましょう。
販売管理システム
販売管理システムは受発注だけでなく、在庫管理や請求管理など販売管理業務をつなげて一元管理できるシステムです。
受発注管理システムや在庫管理システムとほぼ同じ機能が使える上、システム連携や転記作業をせずにデータが各業務管理の機能に自動で共有、更新されます。
以前はシステム開発や維持費が高額になることがネックでしたが、クラウド販売管理システムが数多くリリースされ、コストをおさえた運用が可能になっています。
クラウド販売管理システムは、システム化による卸売業務の抜本的な改革を実施するなら、ぜひとも取り入れたいITツールといえるでしょう。
EC運用
ECへの進出は、今後、卸売業者が競争力を維持していく上で重要な施策です。
卸売業者だからこそ提供できる豊富な商品ラインナップと価格は、消費者を引き付けるセールスポイントになります。
ECサイトで行うBtoCの取引はBtoBに比べて注文処理プロセスがシンプルなため、リソースを抑えたスピーディーな売上を獲得できるメリットがあります。
しかし、ECでの消費者との取引は、これまでBtoBで取引を行ってきた卸売業者にとっては特殊なものです。
BtoBの企業が、BtoCのECサイトを運用する中でBtoBのワークフローをそのまま踏襲してしまうことによって起こる問題があります。
BtoCのECでは、受注から入金までの流れがBtoBとは根本的に異なるため、既存のシステムでは対応しきれません。無理に適用しようとすると、無駄な手作業工程が生まれ、ミスやトラブルが増えてしまいます。
また、本格的にEC事業を拡大するなら、複数のEC運用が必須となります。
ECプラットフォームやECモール、自社ECを横断して売上げや在庫数を管理できる環境がなければ、受注データや在庫数量を確認、更新するためにいくつものサイトを往復しなければならず、非効率的です。
EC一元管理システム
EC一元管理システムは、在庫や受注データ、売上管理、商品登録など複数ECの運用業務を1つのシステムで一元管理できます。
レコメンドメールの自動発信やECモール内のSEO対策、返品対応などECの運用に必須となる機能も、EC一元管理システムに搭載されています。
自社の基幹システムと連携させると、在庫データとの連携や、イベント出店による在庫変動の反映、売上分析や共有も可能となり、面倒な手作業工程がほとんどなくなります。
まとめ
ITツール、デジタルツールは多くのものがリリースされているため、サービスの選定自体が骨の折れる作業になります。
導入を進めるには、まずは現状の業務プロセスを見直し、課題を洗い出すことから始めましょう。そこから、自社の業種向けシステムから各機能の使い勝手がフィットするか吟味することで、社内外に定着するシステム化がの成功に近づきます。
システム導入後は担当者の研修や運用ルールやマニュアルの作成なども欠かせません。導入後のことを見据えて、「サポート体制の充実」も選定の指標としておくと良いでしょう。
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