「自社で保有するもの」だったシステムが、クラウドの登場により「外部のサービスを利用するもの」という認識に切り替わりつつあります。
自社システムの老朽化やサポートサービスの終了などを受けて、クラウドへのリプレイス(入れ替え)を検討されている担当者様もおられるのではないでしょうか。
その一方で、移行や定着がうまく進まないケースや導入後のトラブルもよく聞かれるところです。
この記事では、今、基幹システムのクラウドへの移行が必要とされる理由と、クラウド化する際に気を付けるべきポイントを失敗事例をもとに解説します。
現行システムの運用に不満を抱えている、クラウドへのリプレイスなどシステムの刷新を検討中の担当者様はぜひ最後までご覧ください。
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基幹システムとは?
販売管理や在庫管理、生産管理、勤怠、財務や会計など企業の中核をなす主要業務を管理・支援するシステム全般を基幹システムと呼びます。
それぞれ独立したシステムであったり、いくつかの業務管理を組み合わせた基幹システムがあり、関連部署の業務効率化や標準化を目的に導入されます。
基幹システムのデータは個別に管理されているため、基幹システム間でデータをやり取りするにはシステム連携やAPI連携などが必要になります。
基幹システム
- 販売管理システム
- 在庫管理システム
- 生産管理システム
- 購買管理システム
- 勤怠管理システム
- 財務会計システム
- 人事給与システム
クラウドサービスの登場で導入が進む
日本では1990年代から大企業を中心に基幹システムの導入が進み、2010年代になると中小企業でも積極的にシステム化の取り組みが始まりました。
基幹システムの構築はサーバーやソフトウェアを自社で保有して開発・インストールして運用するオンプレミス(オンプレ、自社運用)が一般的でした。
2010年代後半になると、低コストかつ短期間に導入できる基幹システムのクラウドサービスが数多く誕生したことで、企業の規模を問わず基幹業務をシステム化する導入ハードルは大きく下がりました。
ERPと基幹システムの違い
基幹システムとしばしば混同される言葉にERP(Enterprise Resource Planning(企業資源計画))があります。
「ERPパッケージ」「統合基幹業務システム」「業務統合パッケージ」などの名称で呼ばれます。
基幹システムは販売管理や在庫管理など各業務ごとのシステムを指すのに対し、ERPはこういった基幹業務や情報系のシステムを統合して一元管理することを指し、内部統制や経営の意思決定の迅速化などを目的に導入されます。
オンプレミスからクラウドへの切り替える3つの理由
そんな基幹システムをオンプレミスからクラウドへのリプレイスを検討する企業が増えています。
主な理由としては、次の3つが挙げられるでしょう。
- クラウド型のコストパフォーマンス、サービス向上
- オンプレミスのレガシーシステム化
- 「2025年の崖」問題の顕在化
それぞれ、順番に見ていきます。
①クラウド型のコスト、サービス向上
導入コストが抑えられる
クラウド型の基幹システムにリプレイスするメリットは「導入コストが安い」「短期間での導入」の2点がまず挙げられるでしょう。
クラウド型は開発や設備への初期投資が必要なく、数万円~数十万円の月額利用料(年額プランなどもあり)だけで運用できます。
アカウントを作成すればすぐに操作できるクラウド型は、運用開始までの期間が短く、事前準備や無料体験をふくめて3か月以内に運用を始められる企業が多いです。
他にもクラウド型には、次のような利点もあり、リプレイスしやすい要因となっています。
- システムの保守、メンテナンスをベンダーに任せられる
- ネット環境さえあればどこからでもアクセスできる
- 各拠点での利用を、アカウントの追加で実現できる
- 自社に合わないサービスだった場合、低コストで乗り換えられる
クラウド型のサービス向上(カスタマイズやセキュリティ)
オンプレミスはカスタマイズ性の高さや自社運用によるセキュリティ面の信頼性の高さはメリットに挙げられます。
ところが、クラウド型の需要が高まり、サービスの競争によって、業種や業務に特化したクラウドサービスやカスタマイズ性に重点を置いたクラウドサービスが数多くリリースされています。
セキュリティに関しても、VPN(インターネットVPN/閉域VPN)といったセキュアなネットワークを利用したり、セキュリティの認証レベルを高く設定したサービスが増えているなど、信頼性と安全性は大きく向上しています。
オンプレミスと比べても、費用対効果を考慮すればカスタマイズやセキュリティが「クラウドの弱み」ということはできなくなっています。
クラウド型のサービス向上とオンプレミスの導入ハードルの高さから、システムのリプレイスはまずはクラウドから検討する流れが当たり前になりつつあります。
②オンプレミス型のレガシーシステム化
長年運用しているオンプレミスの基幹システムは、何度もメンテナンスや改修を重ねる過程でシステムが複雑化、肥大化し、運用や保守の負担やコストの上昇などさまざまな問題をかかえています。
システムの全体像や技術について理解している人が社内に残っていないケースも珍しくはありません。
開発当時のプログラミング言語に対応できる技術者が少なくなっているシステムの運用を続けることは、メンテナンスや改修のコストが高くなるだけでなく、業務の属人化やブラックボックス化を引き起こしかねません。
こういった過去の技術に依存したシステム(通称:レガシーシステム)による負担やトラブルが問題視されています。
経済産業省が2018年に発表したDXレポートによると、システム化を導入している企業のうち約8割がレガシーシステムをかかえており、レガシーシステムの保守・運用によるIT人材の浪費を問題視している企業は6割以上にも上ります。
③「2025年の崖」問題の顕在化
クラウドツールの発展やAI技術の普及、5Gの実用化などデジタル環境はここ数年で目まぐるしく変化しています。
こういった新たな技術を取り入れたビジネスモデルで競争力や成長力を生み出すDXが、業務の在り方を根本から変え、効率化と付加価値を創出するきっかけとなりえるものの、レガシーシステムがその実行を阻む存在となっています。
先ほどのDXレポートによると、レガシーシステムがDXの足かせとなっていることを「強く感じる」企業が17.2%、「ある程度、感じる」企業が50%にも上ります。
約7割の企業が、レガシーシステムをDXの障害ととらえているのです。
レガシーシステムの放置とサポート終了の影響
また、システムのサポートが終了するなど、従来通りの運用が難しくなりつつあります。IBMの提供するIBM i7.2(AS400)のサポートが2024年4月30日で終了したことも話題となりました。
このような環境に企業が依存、または放置し続けることは、経済的に大きな損失が生じるリスクがあります。
レガシーシステムの問題が放置されることによって、2025年以降に生じる経済的損失は毎年最大12兆円にものぼると試算されています。経済産業省はDXレポートでこの問題を「2025年の崖」と呼び、克服を促しています。
レガシーシステムからの脱却はもはや一企業だけの問題ではなく、日本全体で解決していくべき重要な課題となっています。
基幹システムの入れ替え失敗例から見る、3つのリプレイス対策
基幹システムをはじめとしたレガシーシステムの刷新、クラウドへのリプレイスは企業がこれからの時代を生き抜く上で避けては通れない課題といえます。
その一方で、「クラウド化によってかえって業務の効率が下がった」「顧客からのクレームにつながった」といった失敗例もよく聞かれます。
入れ替えに失敗する例として、特に多いのは次のようなケースです。
- 既存システムと連携がとれない
- 業務内容を大きく変える必要がある
- 顧客が使いづらいツールになっている
それぞれの失敗例を詳しく見ながら、基幹システムのリプレイスに必要な具体策を紹介します。
【失敗例1】既存システムとの連携がうまくいかない
多くの企業は、レガシーシステムをすべて新しいものに入れ替えるのではなく、移行可能なシステムから徐々に刷新していく手法をとっています(レガシーモダナイゼーション)。
この場合、新しく導入するシステムが既存システムとデータの連携が問題なくできるかどうかが重要です。
導入前に、連携の可否についてチェックを怠った結果、データ共有の遅れやデータ連携時の手作業工程が発生するなど、かえって業務効率が下がってしまったという事例はよく聞かれるところです。
【対策】導入前のシミュレーションとルールの周知
このようなトラブルを未然に防ぐためにも、現行システムとの連携を前提に新しいシステムを選定する必要があります。
社内や部署内で運用担当者を中心に、業務フローやデータ管理の要件や課題を整理してまとめた内容を候補となるベンダーと共有します。
ベンダーからのデータ連携についての説明や提案、無料体験でのデータ連携の操作性など、自社のデータを効率的に利活用できるシステムかをメンバーに確認、評価してもらいましょう。
- データの同期
- データフォーマット
- インポート、エクスポート
- API連携
上記のようなシステム連携の要件と手順の確認も忘れずに行います。
システムを利用するメンバー間でデータ管理や操作手順、情報共有など運用ルールの取り決め、マニュアルの作成、研修や説明会を通した定着までのプランニングは、ベンダー側のサポートを積極的に活用して進めると良いでしょう。
【失敗例2】新しいシステムが使われない、使いこなせない
カスタマイズ性の高い基幹業務のクラウドサービスが増えているとはいえ、自社の業務に完全にフィットしたクラウドツールを見つけるのは難しいでしょう。
場合によっては、システム導入がメンバーの業務に大きな変化をもたらす可能性もあります。
新しいシステムの導入前に、導入後の変更点に向き合わずに安直なシステム選びをしてしまうと、導入後、かえって業務効率の低下を招きかねません。
システムの変更によって業務内容が大きく変わったことで、使われない、使いこなせないまま形骸化してしまったケースは珍しくありません。
【対策】フィット&ギャップ分析
メンバーが新しいシステムの使い方や以前との変更点をスムーズに習得できるよう進めるには、自社の業務フローと新しいシステムの適合(fit)とズレ(gap)を見極めるフィット&ギャップ分析が非常に重要です。
業務を行う上で必ず欲しい機能をリストアップして、対応(fit)できるシステム、クラウドサービスを検討します。
その後、対応していない(gap)業務に対する対策を練る、といった流れになります。
ギャップへの対策には次のようなことが挙げられます。
- 別システムの運用、併用
- ベンダーにシステムのカスタマイズを依頼する
- システムに合わせた業務フローに変更する
システムにあわせて業務フローを変更する際は、該当業務の担当者はもちろん、関連業務を行うメンバーとも細やかな共有を心がけましょう。
【失敗例3】顧客がシステム変更に対応してくれない
意外と盲点になりやすいのが「顧客にとって有益なツールであるかどうか」という点です。
特に、受注まわりのシステム化にあたっては、顧客の利益や利便性を考慮した選定が重要になります。
例えば、受注管理システムは受注業務を大幅に効率化させる一方で、特殊な形式の発注に柔軟に対応しづらい面もあります。
顧客がアナログならではの発注対応に付加価値を見出していた場合、発注方法がシステム化されることで信頼関係が失われる可能性があります。
また、顧客によっては発注フォーマットの変更に難色を示すケースや、ITツールの利用そのものに対して苦手意識を持っているとケースも考えられます。
【対策】既存のシステムにはない価値や体験を提供できるクラウドサービスの導入
システム化によって顧客に何らかの不便、不利益が生じる可能性がある場合は、これまでと違った利便性や付加価値を提示できるようなシステムを導入するようにつとめましょう。
例えば、24時間いつでもどこからでも発注できるクラウドサービスの受発注管理システムは、顧客の利便性にもつながるでしょう。
業種や業務に特化したクラウドサービスであれば、商習慣や商流に合わせた機能が充実しており、顧客への高い付加価値の提示が期待できます。
在庫管理 | 拠点間の在庫調整や入出庫業務が効率化され、納品までのリードタイムを大幅に短縮できる |
アパレル業 | オンライン展示会で場所、天候、時間を問わずにWEB発注ができる。高品質なビジュアルで品質や素材、技術を精査できる。 |
食品業 | 賞味期限や品質管理に厳格に対応した商品管理 |
まとめ
レガシーシステムからの脱却、基幹業務のDXは、日本企業がこれからの時代を生き抜くために避けては通れない道です。
多くの企業にとって古いシステムを運用し続けることは業務効率の低下を招くだけでなく、ビジネスの機会損失にもつながりかねないリスクをはらんでいます。
しかし、システムの強みや弱みを考慮せず、シェア率やコストで「クラウド型にリプレイス」と、一面的な判断での導入は後のトラブルにつながりやすいです。
基幹システムをクラウドサービスにリプレイスする際には、自社の業務プロセスとの整合性や商習慣、社内外のニーズや課題解決に合致しているかを見極め、業務効率向上に貢献してくれるサービスを選ぶことが肝要です。
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