2023年10月1日から施行されるインボイス制度。
大手企業から中小企業、個人事業主まで、取引先、会計・経理関連への対応など、さまざまな準備を行ってきました。
インボイス制度の実際の運用では、事業者は「適格請求書発行事業者」として「適格請求書」という、これまでの請求書とは異なる様式での請求書を発行して、取引先へ交付します。
この記事では、「適格請求書」の書き方や対応ソフトを使ってのオンライン化など、インボイス制度によって請求業務のどこが変わるのか、どう対応すればいいのかを具体的に説明していきたいと思います。
INDEX
インボイス制度とは?
インボイス制度は「適格請求書等保存方式」の通称で、軽減税率の導入に伴って、複数の税率に対応した消費税の仕入税額控除の要件として、「適格請求書(インボイス)」を発行、保存する制度です。
適格請求書は、売り手から買い手に、適用した税率と消費税の税額を正確に伝えるための請求書になります。
適格請求書を発行できるのは、「適格請求書発行事業者」です。
適格請求書発行事業者は、課税事業者として税務署に申請して、登録を受けることで「登録番号(T+13桁の番号)」を取得できます。
この登録番号が適格請求書(インボイス)の発行に必要になります。
登録番号の例 T1234567890123 |
売り手から発行された請求書が、従来の様式だったり、適格請求書の要件を満たしていない場合は、買い手はその取引を仕入税額控除の対象にできません。
適格請求書の要件、項目については後述します。
いつから始まる?
インボイス制度は2023年10月1日から正式に始まります。
制度開始の10月1日から適格請求書を発行するためには、それまでに登録番号を取得しておかなければなりません。
2023年9月30日までに申請すれば、2023年10月1日が登録日として設定されます。申請から登録番号の通知までには、数週間から数ヶ月の日数がかかります。税務署の処理期間をふくめた日数を考えて、申請手続きをしましょう。
2023年6月13日時点の処理期間の目安は、下記のようになっています。
提出方法 | 登録番号通知までの処理期間の目安 |
e-Tax | 約1か月半 |
書面 | 約3か月 |
最新の登録申請書の処理期間は適格請求書発行事業者の登録件数及び登録通知時期の目安について(国税庁)でチェックできます。
インボイス制度への対応(売り手、買い手)
インボイス制度に対応するには、どのようなことが必要でしょうか。
取引や売買の売り手と買い手、それぞれの対応をまとめました。
双方ともに、社内で制度の周知を行い、業務フローの変更点を共有したり、取引先と今後の受領方法や新しい記載方法について確認しあうことも必要になります。
売り手(適格請求書を発行する)
- 管轄の税務署に適格請求書発行事業者の申請、登録
- 使用しているシステムの対応を確認する
- 請求書のフォーマットを変更する
- インボイス制度に対応したソフトへ変更する、オンライン化する
インボイス制度が始まったら
- 買い手に適格請求書を交付する
- 発行した適格請求書の写しを保存する(消費税の申告期限から7年間)
適格請求書の発行は、税率計算やフォーマットの変更作業で担当者の負担が重くならないよう、システムのアップデート情報やフォーマットの変更方法、新しいシステムの導入などで、スムーズな移行が求められます。
適格請求書発行のオンライン化について、この記事の後半にお伝えします。
買い手(適格請求書を受け取る)
- 取引先との対応の確認
- 免税事業者との取引を検討、相談する
- 免税事業者からの仕入れ控除についての経過措置の確認(2023年10月~2029年9月の6年間)
- インボイス制度に対応したソフトへ変更する、オンライン化する
インボイス制度が始まったら
- 受け取った適格請求書の内容を確認する
- 適格請求書の原本を保存する(消費税の申告期限から7年間)
インボイス制度への対応は義務?
税務署への適格請求書発行事業者の申請、登録は義務や強制ではありません。
しかし、適格請求書発行事業者となり、消費税のある取引を行った場合、買い手の課税事業者から適格請求書の交付を求められたら、適格請求書を交付する義務があります。
もし2023年10月1日以降、適格請求書発行事業者の登録のない売り手が、従来の請求書を交付する場合、買い手は仕入税額控除を受けられないため、従来の請求書を発行する事業者との取引を見直すことが考えられます。
登録の可否は、今後の取引について取引先とじゅうぶんに相談して検討しましょう。
適格請求書の書き方
それでは、インボイス制度の適格請求書はどのように作成すればいいのか、サンプルを見ながら書き方を確認していきましょう。
必要な項目
これまでの請求書1.~5.に、新たに次のA.~C.を追加した様式が適格請求書になります。
- 請求書の発行事業者の氏名または名称(売り手)
- 取引年月日
- 取引の内容(軽減税率(8%)の対象品目があれば記載)
- 税率ごとに区分して合計した対価の額
- 請求書の交付を受ける事業者の氏名または名称(買い手)
- A 登録番号(T+13桁の番号)
- B適用税率
- C税率ごとの消費税額の合計
3.の「取引内容」は、軽減税率の品目には*や※のマークをつけて、欄外に「*は軽減税率対象」などと記載して、どの品目がどの税率なのかをわかるようにします。
「B.適用税率」と「C.税率ごとの消費税額の合計」は、「4.税率ごとに区分して合計した対価の額」に追加する書き方と考えるとわかりやすいです。
適格請求書の税率部分の記載方法
4.税率ごとの合計額 | C.税率ごとの消費税額の合計 | |||
追加 B.適用税率 | 税率10%対象 | 5,000円 | 消費税 | 500円 |
税率8%対象 | 500円 | 消費税 | 40円 |
適格請求書のサンプル
インボイス制度の適格請求書は、前述した1.~5. A.~C.のすべての項目を記載して買い手に交付します。
不足の項目があると、適格請求書として認められません。抜け・漏れ、税率の計算ミスがないよう、フォーマット作成や計算式(関数)など、変更の段階でじゅうぶんにチェックしましょう。
▼登録番号入りの請求書
合計請求書のインボイス制度への対応は?
例えば、月締めで請求書を交付していて、月内は納品の都度、納品書を発行している取引の場合、複数の納品書の請求を合算した請求書を作成して、買い手に交付しているとします。
納品書も記載事項の要件を満たせば、適格請求書として認められます。
また、適格請求書は1つの書類だけで要件を満たす必要はなく、関連が明確な複数の書類で要件を満たせば、1つの適格請求書として認められます。
納品書には「取引の内容(軽減税率の品目も)」「適用税率と税率ごとに区分して合計した対価の額」「税率ごとの消費税額の合計」「登録番号」を追加して、合算した適格請求書には取引内容のところに関連する納品書の納品書番号を記載すれば、納品書と請求書で適格請求書の要件を満たします。
ちなみにDEXTREも合算請求書の作成にも対応(インボイス制度にも対応)しております。
インボイス制度対応をオンライン化するには?
- Excel
- 請求書作成ソフト
- 会計システム、会計ソフト
- 販売管理システム
- 受発注システム
- 基幹システム(ERP)
- ビジネス系SaaS
上記のように、請求書を作成するソフトやシステムは数多くありますが、多くのシステム提供事業者は、インボイス制度に対応した機能にアップデートしており、ソフトやシステム内の対応を完了しています。
自社で使用しているソフトやシステムが、インボイス制度に対応しているかどうか不明な場合は、制度が正式に始まる2023年10月1日までに、対応しているかどうか、適格請求書の作成方法と保存についてWEBサイトやサポートガイドなどで確認しておきましょう。
Excelで請求業務を管理している場合は、適格請求書の要件に合わせてフォーマットや計算式(関数)を変更する必要があります。
インボイス制度対応ソフト、システムに必要な機能
- 登録番号の入力
- 軽減税率の設定
- 適格請求書(電子インボイス)の作成
- 適格請求書(電子インボイス)の送信
会計や受発注、請求業務などの機能に「軽減税率の設定ができる」「登録番号の入力ができる」「適格請求書の要件を満たした帳票を作成して送信できる」など、インボイス制度に対応しているか、確認しましょう。
適格請求書の作成をSaaSでオンライン化する
適格請求書の作成をはじめとした帳票作成や送信をWEB上で行いたい、あるいは利用しているソフトやシステムがインボイス制度に対応できない場合は、クラウドで利用できるSaaSがリーズナブルで機能も充実しており、請求業務の見直しの選択肢としておすすめです。
SaaS(Software as a Service)は、インターネットを通してWEBブラウザで利用するアプリケーションやサービスです。クラウドサービスともいわれます。
会計や受発注管理、販売管理、請求業務、チャットツールなど多種多様なビジネスツールがあります。
SaaSを使った適格請求書の作成は、初めに登録番号や軽減税率を設定すれば、あとは要件を満たしたフォーマットで適格請求書が作成され、取引先に送信できる機能があり、多くのビジネス系SaaSで対応が進んでいます。
例えば、卸売業や商社、メーカーなどが利用する、BtoB向けの販売管理や受発注管理のSaaSは、受注データや納品書から適格請求書を作成することができます。
【実例】クラウドサービスで適格請求書を発行する
インボイス制度に対応している、クラウド販売管理DEXTREを例に、実際にオンラインで適格請求書を発行する方法を見てみましょう。
DEXTREとは? 日本と海外両方のBtoB取引をオンライン受注から帳票作成、在庫と納品、請求、入金までをひとまとめに管理できるクラウド販売管理ツールです。 取引先(買う側)ごとに価格や提案製品、取引条件を変えて受注できます。貿易書類の発行もかんたん、多言語多通貨対応です。
登録番号を設定する
取引に使用する税金の種類を設定します。
適格請求書を発行する自社(売り手)の登録番号を入力します。
軽減税率を設定する
取引に使用する税金の種類を設定します。
軽減税率のチェックを入れて、税率を設定します。
適格請求書を作成する
受注データから適格請求書を作成する場合です。
①請求書の作成を始める
受注データから、適格請求書を作成したい注文を選んで、「請求書を直接作成する」をクリックします。
②請求書の要件を設定する
①~⑩の項目をそれぞれ入力していきます。
最後に⑪の「作成」をクリックすると、適格請求書のPDFが作成されます。
① 請求先住所
編集、選択できます。
② メーカーの銀行口座
事前登録されている「銀行口座」を選択します。
③ 請求書No.
御社のルールに則った請求書Noを入力します。
④ 請求割合
デポジットの場合は、デポジット率を入力します(30%の場合は「30%」)。
全額請求の場合は「100%」です。
⑤ 支払い案件名
支払い条件を入力します。
(例)This order will be confirmed when a 30% deposit is paid.
⑥ 支払い期限
カレンダーから選択します
⑦ 概要
最終ページに文字数制限なく、テキストを表示します。
⑧ 備考
メモを残せます。(請求書には表示されません)
⑨ 送料
送料を追加できます。
⑩ 他の費用
任意の項目で費用を追加できます。
⑪ 作成
クリックすると適格請求書が作成されます。
③適格請求書の完成
インボイス制度の要件を満たした適格請求書が作成されました。
④取引先に送付する
取引先(買い手)のメールアドレスに適格請求書PDFを送信します。
①メール本文
メール本文を入力します。
②PDFのヘッダータイトルタイプを選択します。
③言語
メールの言語を選択します。
④PDFカスタムヘッダータイトル
請求書PDFのヘッダー(上部)に表示するタイトルを入力します。
⑤フォントサイズ
送信する請求書PDFのフォントサイズを設定します。
⑥メーカーの住所を選択
送信元(自社)の住所を選択します。
⑦送信先の氏名を変更できます。
⑧送信
適格請求書のPDFが送信されます。
その他のDEXTREの適格請求書作成、外部システムとの連携
- DEXTREでは、他にもさまざまな適格請求書を作成できます。
- 受注データから「デポジット請求書」
- 納品書をまとめた合算請求書
- バランス(残高)請求書
- デポジット請求書から「バランス(残高)請求書」
- 一括作成
- 複数の取引先をまとめた請求書
会計ソフトfreeeや弥生会計、送り状システムのヤマトB2クラウド、佐川e飛伝など外部ソフトの形式に合わせて請求書のデータをエクスポートできます。
まとめ
まもなくインボイス制度がスタートします。
インボイス制度の対応や適格請求書の発行には、いくつかの要件がありますが、売り手側の対応は、
- 適格請求書発行事業者の登録を済ませる
- これまでの請求書に「登録番号」「適用税率」「税率ごとの消費税合計金額」を追加する
- 適格請求書を保存する
この3点が基本的な対応になります。
制度が始まる前にこれらの準備ができていれば、2023年10月以降もスムーズに取引を継続できるでしょう。
適格請求書の発行をオンライン化も、かんたんな操作と設定で、ミスのない適格請求書が作成できるクラウドサービスの導入によって、Excelやシステムへの手入力での請求業務だけでなく、業務管理全体を効率化できるチャンスともいえます。
新たにシステムやソフト、SaaSを導入する際は、インボイス制度対応の有無だけでなく、自社の業務フローに合っているか、現状の悩みや課題をクリアできるか、目的や導入効果、操作性など総合的な視点から、自社に合ったツールを選択しましょう。
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